キャプティブプログラムにおける、元受保険会社の役割とは?

「キャプティブプログラムには、元受保険会社が必ず必要である」と思っている方は多いと思いますが、実はこれは間違った認識です。キャプティブ保険会社は、事業会社に対して直接保険証券を発行する元受キャプティブが基本形です。対して元受保険会社が保険証券を発行し、キャプティブが再保険を引受ける再保険キャプティブは、特殊な事情があるケースになります。

こんにちは、ハワイ州キャプティブ保険マネジャーの三澤です。
令和元年、おめでとうございます。
新しい時代の幕開けですね。

 

さてキャプティブプログラムを検討したことがある方の多くは、元受保険会社という言葉を聞いたことがあると思います。元受保険会社とは、保険証券を発行してくれる保険会社のことです。キャプティブプログラムに元受保険会社が介在する場合、キャプティブは再保険会社として元受保険会社からリスクの一部か、もしくは全てを引受けます。キャプティブプログラムにとって、保険会社が果たす役割は非常に大切です。今回は、キャプティブ保険会社にとっての元受保険会社の役割についてお話したいと思います。

 

「キャプティブプログラムには、元受保険会社が必ず必要である」と思っている方は多いと思いますが、実はこれは間違った認識です。キャプティブ保険会社は、事業会社に対して直接保険証券を発行する元受キャプティブが基本形です。対して元受保険会社が保険証券を発行し、キャプティブが再保険を引受ける再保険キャプティブは、特殊な事情があるケースになります。

 

キャプティブプログラムが元受保険会社を利用する代表的な理由は、付保規制と格付けの二つです。

 

付保規制

現地の規制などの理由で、キャプティブが直接保険証券を発行できないことがあります。これを付保規制と言います。米国の保険業は、主に州管轄で規制が行われており、州によっては州外のキャプティブからの証券発行を認めないケースがあります。こういったケースでは、その州で保険引受を行っている既存の保険会社に元受をしてもらいます。元受保険会社は、自社が発行している保険証券として、現地の保険局から認可を得ている範囲で元受を行い、料率や付保内容などの認可手続きを代行します。キャプティブは、現地で保険会社として登録する手間や、プログラムの認可や報告手続きを軽減する代わりに、元受保険会社に対して報酬を支払います。

 

格付け

企業が事業を行う過程で、保険証券を第三者に提出する場合があります。例えばオフィスの大家さんに火災保険の保険証券を提出するようなケースです。この場合、保険証券の提出を求めている第三者が、一定の格付けのある保険会社からの保険証券を要求することがあります。キャプティブが格付けを得ることは可能ですが、ある程度の資本規模や膨大な手間とコストがかかります。この場合、格付けのある保険会社に元受証券を発行してもらい、実際のリスクはキャプティブが再保険として引受けます。いわゆる信用貸しです。

 

現在世界には約7000社のキャプティブが存在しているわけですが、多くのキャプティブプログラムがこれらの理由で元受保険会社を利用しています。また保険会社にとっても、キャプティブに対する元受サービスはビッグビジネスであると言えます。保険会社によっては、元受サービスの専門会社を持ち、主要サービスとして積極的に提供しているケースもあります。

 

では日本企業キャプティブと国内元受保険会社の関係について見てみましょう。キャプティブが日本国内のリスクを引受ける場合、ほぼ全てのケースで元受保険会社を利用します。日本のキャプティブマーケットは、実は特殊な事情がある例外的な地域だと言えます。ただし日本の場合、付保規制や格付けとは別の理由が考えられます。

 

アンダーライティング

キャプティブに限らず保険会社が保険引受をする際に、引受の判断や保険料の設定、保険証券のドラフト作成などの作業が必要になります。これらの作業をアンダーライティングと言います。海外では保険ブローカーがキャプティブに対してアンダーライティングのサービスを提供するケースが多いです。しかし日本の保険市場ではまだブローカーやキャプティブそのものの市場が未発達で、国内の保険会社が元受サービスの一環として提供しているケースがほとんどです。これはアンダーライティングを行える人材が一部の大手保険会社に集中している、日本独特の市場構造が主な理由です。キャプティブが日本国内のリスクの引受けを行う場合、元受保険会社を利用する理由の一つです。

 

保険査定・事故処理

キャプティブが元受証券を発行する場合、事故の査定や処理の作業を自前で行うか、外部に委託する必要があります。ほとんどの場合キャプティブには事故処理の能力はなく、外部に委託するケースがほとんどです。自家保険とキャプティブが浸透している欧米地域では、キャプティブの保険査定と事故処理を行う専門会社が数多く存在しています。こういった企業を、Third Party Administrator(TPA)と呼びます。キャプティブの運営にTPAの役割は必要不可欠で、ハワイ州でもキャプティブ設立申請の際に、誰が保険査定と事故処理の作業を行うのか必ず指定します。しかし日本国内では、キャプティブや自家保険の市場がまだ未発達で、また一部の大手保険会社がマーケットの大半を占めています。したがって日本にはキャプティブに保険査定・事故処理のサービスを提供するTPAマーケットが、まだ存在していません。日本企業のキャプティブ運営では、大手保険会社が社内に抱えるリソースを活用することが必要になります。

 

日本企業のキャプティブ運営には、元受保険会社との協力関係が大切です。現在取引のある保険会社が、キャプティブに対してどういったスタンスでいるのか確認してみてください。